地学部の立ち上げと10年の実践~地学分野での科学部活動

地学部

2007年から2018年にかけての11年間,東京都新宿区にある私立・海城中学高等学校で理科(地学)教諭としてお世話になり,そこで地学部を立ち上げ,科学部活動の実践をさせていただきました.学校で初めての地学の専任教員として着任し,すぐ地学部を立ち上げました.そして,地学部を活発化することで,地学という科目をより認識してもらい,生徒にも科学的な素養と興味・関心を持ってもらうことがある程度できたと思います.ここでは地学部を立ち上げた経緯と概略をまとめています.今後,このブログでより具体的な実践記録をアップしていきたいと考えていますので,皆さまの参考になれば幸いです.

地学の重要性と教育現場での状況

地球環境問題がよく取り上げられるようになり,随分と経ちました.最近では,STEAM教育やSDGsなどが注目され,地球温暖化をはじめ地球環境問題の知識や理解は,グローバルなものの見方やより先の未来を考えるときに欠かせない知識や考え方ではないでしょうか.

一方,津波や原発事故が社会に大きなインパクトを与えた東日本大震災から10年以上が経過し,毎年のように起こる自然災害への関心も高まっているように思います.自然災害が増えているのか,報道などで取り上げられることが増ているのかわかりませんが,一昔前よりも注目されているように思います.

東日本大震災の被災地で目の当たりにした自然の驚異(気仙沼)

このような自然災害や地球環境問題などに対応していくために,理科の一分野である地学(地球科学)はとても重要な科目だと思います.例えば,火山や地震,地質,気象などの科学的な知見は,いずれの問題を解決していくための第一歩になります.そして,地学では,室内実験だけではなく,フィールドサイエンスの方法論も学べます.

しかし,地学を専門とする人材は少なく,私大を中心に大学受験で選択することも厳しいことから,高等学校では文系科目として位置づけられ,物理・化学・生物などの他科目に比べ履修率も低くなっています.さらに,地学を専門とする教員は現場に少なく,小学校から高等学校まで専門外の教員が指導している割合が非常に高いと考えられます.

このようなことから,火山国・地震国であり,地学現象の豊かな日本列島であるにも関わらず,その学習内容は,そこに住む国民にあまり定着していないと思われます.私は,地球科学が少しでも一般社会に浸透し,その裾野が広がって欲しいという問題意識を持っています.

火山噴火が作り出した温泉や芦ノ湖で有名な風光明媚な箱根(災害だけでなく恵みももたらす日本の自然)

地学教員として赴任した当時の理科

そのような中,私は海城中学高等学校に赴任しました.この学校は,東京都新宿区にある中高一貫の男子校です.卒業生の進路は難関大学をはじめとする大学進学がほとんどのいわゆる進学校です.

着任当時の学校の文化祭で盛り上がりをみせる前庭

当時の理科カリキュラムは,中学1年から高校1年まで,物理・化学・生物・地学の4科目を広く学ぶものでした.高校2年からは選択科目となり,地学は文系生徒のみが選択履修でき,主に,大学入試センター試験を主眼に選択する生徒が多く,残念ながら理系の地学は不開講でした.それでも,高1までは理科の他科目と同じように扱われ,学習する機会が保障され,そして,私を専任教員として採用するくらいですから,4科目をきちんと学ばせようとする風土と余力のある学校でした.

中1地学の担当授業(火山灰の椀がけと実体顕微鏡観察)

地学部の立ち上げ

長らく非常勤講師のみで行われていた海城の地学に,私が専任として着任したのですから,地学という科目を理科の一分野としてきちんと定着させ,認知してもらうことが自分に与えられた仕事だと考えました.そして,有効な一つの方法として,カリキュラムの影響を受けにくく,自由な活動がしやすい科学部活動でアピールしていくことがよいと思いました.

私が着任した初年度,高校1年生と中学1年生の生徒が集まり,地学同好会が発足しました.もともと非常勤講師の先生が熱心に行っていらした野外実習などに参加して息のかかっていた高校生に加え,私が授業を担当した新入生の中学1年生に声をかけ,メンバーが集まりました.部活動ですから,あくまで生徒が希望して作ります.

1年後,地学同好会は条件をクリアして地学部に昇格.海城では,従来からある物理部,化学部,生物部に,地学部も加え4科目の科学部活動が揃いました.初期の活動は,フィールドサイエンスの要素が強い地学分野を意識し,土日や長期休暇などに野外へ出かけ,巡検することを中心にしました.特に,教室を離れて本物を見ることに主眼を置き,教科書や資料集に記述のある内容などついて,実際に見て歩きました.フィールドワークの実施は授業では難しく,教室では味わえない深い理解と好奇心を得ることができました.

地学部立ち上げ当初の文化祭ブース(かなり自分でつくったような…笑)

地学部の発展とその後

立ち上げから数年は,とにかく部員数を増やして学内での認知度を上げ,部活動として安定させる必要がありました.そこで鍵になるのが天文や鉱物好きの生徒でした.天文好きの生徒が合宿を企画したり,鉱物好きの生徒が巡検先を提案したりして,随分,私や部員を引っ張ってくれました.また,部活動は内輪で閉じていては発展しないので,外部への発信の機会として文化祭で毎年ブース展示を行いました.

同時に,当時できた学校ホームページのブログに活動内容を小まめにアップするように力を入れました.同僚教員,生徒,保護者に認知してもらうことで,様々な場面で部活動がしやすくなります.地学分野のフィールドワークは目新しく感じられ,印象が良かったようです.

富士山周辺での巡検旅行(三島駅前にある楽寿園で三島溶岩を前に縄状溶岩のでき方を動画を見せ説明)

このようにして,学内外で地学部が少しずつ認知され,部員が揃い始めると,もう一歩,発展させたくなります.そこで,フィールドサイエンスを核とした調査・研究活動に取り組み,さらにレベルの高い活動が出来ないかと模索し始めました.私の指導しやすい専門分野に関係することで活動するのが良いと考え,学校近隣にある新宿区立おとめ山公園の湧水を研究対象とし,近年,枯渇・減少する湧水をモニタリングし,水環境の変化を捉えるという目的を掲げました.

2008年5月より予備調査を開始し,流量と基本的な水質(水温・pH・電気伝導度)の測定を何度か行いました.最初,星空や鉱物などと違って,湧水にはなかなか興味を持ってくれませんでしたが,何度か調査に連れ出し,データを取り続けたところ,降雨によって湧水量が変わることに興味を持ち始めました.目で見てもデータで測っても分かるこの変化が面白くなってきたようです.こうして,興味を持ち始めると,フィールドワークが面白くなり,関わる生徒が増えました.

学校近隣のおとめ山公園での湧水調査の様子

予備調査から1年後,それまで行っていた文化祭での発表だけではなく,学外に視野を向けさせようと,地球惑星科学連合2009年大会・高校生セッションに誘導してみました.手を挙げてくれた生徒と試行錯誤しましたが,周囲のレベルはとても高く,生徒と共に驚き,大きな刺激を受けました.そのことで彼らにもっとやってみたいという気持ちが生まれたのかなと思います.こうして課題研究がスタートします.

2010年大会では1年間の湧水の季節変化をまとめ,見事,奨励賞(5-11位)を受賞しました.これでモチベーションも上がり,それ以降,いくつかの発表会への参加を促すようにし,発表することが定着していきました.最終的には, 地球惑星科学連合の高校生セッションで,最優秀賞,優秀賞,奨励賞の3賞にそれぞれが入賞するほどにもなりました.一方で,バランスは難しいものの,課題研究に取り組みたくない生徒はそれで構わない,あくまで好きなことを自由にさせるというには気をつけてきたつもりです.

JpGU(日本地球惑星科学連合)高校生セッションでのポスター発表

このようにして,地学部の部員は増え,課題研究やフィールドワークの対象は広がっていきました.地域での活動や地学オリンピックなど,多様な活動になり入部希望者も増え,地学部を目指して学校を選ぶ生徒まで現れました.こうして発展してきた地学部の活動の具体的な部分を,今後,このブログで整理しながら公開していければと思います.この実践記録が学校現場や一般の方々の参考になれば幸いです.

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