雹(ひょう)の観察~身近な天気・気象

実験・観察
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2022年5月25日(水)夕方,雹(ひょう)が降りました.たまたまですが,初めて撮影できた写真や当日の天気,雹のでき方などをまとめてみました.

突然降ってきた雹(ひょう)

午前中によく晴れて日差しも強く,昼過ぎから雲が出てきたので,夕立になりそうだなと思っていました.案の定,16時頃,強い雨・風と雷鳴が聞こえてきました.春も終わりで,夏の始まりっぽい夕立だなと思っていたら,コツコツと音がしていて,窓から見ると雹(ひょう)でした.

駐車場の屋根にたまる雹(ひょう)

激しい雨風とともに,雹(ひょう)が屋根や窓ガラスに当たり,大きな音がしていました.大きさや勢いによっては,被害も出かねない状況です.幸いにそこまでではなく,雨風が少し弱まったタイミングを見て,傘を片手に道路の端にたまった雹(ひょう)を撮影しました.同じように写真を撮る場合は,安全に十分に気をつけて,何か大きさを比較できるもの(ここでは定規)を持っていきましょう.

道路の端にたまった雹(ひょう)

雨風が少し収まるタイミングを待ったので,少し融けている思いますが,大きいものは1cm程度のものが見られます.降ってきたものは,もう少し大きかったかもしれません.雹(ひょう)は,直径5mm以上の氷の粒と決められているので,雹(ひょう)だと確認ができました.定義を知るだけではなく,実際に測ってみることは理解を深めてくれます.ちなみに,直径が5mm未満の氷の粒は,霰(あられ)と決められています.

道路の端にたまった雹(ひょう)の拡大写真

道路の端の雹(ひょう)をすくって,部屋の中で落ち着いて観察しました.下の写真では,同心円状の白と透明の模様が見られます.これは,雹(ひょう)が成長する過程で,上昇や下降を繰り返しながら大きく成長したことを示しており,私も初めて見たので感動しました.木の成長でできる年輪のようなイメージで良いのではないでしょうか.

拡大した雹(ひょう)
拡大した雹(ひょう)

同心円状の模様をよく観察してみると,雹(ひょうの)の中心と,同心円の中心が合っていないので,もう少し大きかったと思われます.同心円を延長させれば,元の大きさを推定する材料になりそうです.上空ではもっと大きな塊だったのでしょうね.

気象研究所の荒木健太郎さんは,雹(ひょう)を輪切りにしています.面白いですね!

このように,雹(ひょう)は上空の状態の影響を受けて様々な形や模様をして落ちてきます.それを観察することで,上空で起こっている気象現象を知る手がかりが得られます.雪の結晶の観察で有名な気象学者の中谷宇吉郎さんは「雪は天からの手紙」というエッセイを残しています.まさに,雹(ひょう)も,はるか上空の状態を,地上に居ながらに教えてくれる天からの手紙なのです.

当日の雨雲の動き

雹(ひょう)が降った時間帯の降水ナウキャスト(気象庁)のキャプチャ画像です.奈良県北部に降水が見られ,一部に強い雨を示す赤や紫の濃い色が見られます.右側が拡大になりますが,奈良県橿原市から田原本町や高取町,明日香村,天理市にかけて,激しい雨の領域が見られます.

降水ナウキャストは,時間の経過を見ることができるので,急速に雲が発達して,雨も激しくなっていく様子も確認できました.知っている方もいると思いますが,お出かけの時にも,急なにわか雨対策にとても便利なサイトです.

雹(ひょう)のでき方

では,どういうしくみで雹(ひょう)や霰(あられ)はできるのでしょう.雲は氷や水の粒でできています.雨は,雲をつくる氷や水の粒が大きくなり重くなって落ちてきたもので,普通,氷の粒は融けてしまって,液体の雨になって降ってくるものです.雹(ひょう)や霰(あられ)になるには、雨よりも大きな氷の粒が必要です.

雹(ひょう)ができるためには,発達した積乱雲(にゅうどうぐも)が必要です.発達した積乱雲の中では,激しい上昇気流が起こっていて,氷の粒はいつもより上昇や下降をくり返しながら大きく成長していきます. やがて,いつもより大きく成長した氷の粒は落下し始め,融けないまま雹(ひょう)や霰(あられ)となり,空から降ってきます.

雹(ひょう)の季節は冬ではない?

雹(ひょう)のできるしくみはわかりましたが,なぜ寒い冬でもない春から秋にかけて雹(ひょう)が見られるのでしょうか.雲をつくる氷の粒が大きく成長して,雹(ひょう)になるためには激しい上昇気流でできる積乱雲が必要です.激しい上昇気流を起こすためには,いくつかの条件がありますが,昼間に太陽の熱で地表付近の空気が十分に暖められる必要があります.

加えて,この日は日本上空に寒気が入ってきていました.そのため、暖かい地表付近と冷たい上空で大きな温度差ができ,下に暖かく軽い空気が,上に冷たく重い空気ができ,上下に入れ替わりやすい状態ができます.この温度差が激しい上昇気流を生み出し,積乱雲を発生させたため,その中で雹(ひょう)が成長したと考えられます.雪を降らせる冬とは違って,大きな温度差を生む春から夏にかけてが雹(ひょう)の季節といえます.

(雑談)春さきのひょう

雹(ひょう)について興味を持っていただけたでしょうか.私は「雹(ひょう)」と聞くと,物語もしっかり覚えていないのに,なぜか「春さきのひょう」という話のタイトルを思い出してしまいます.当時,教科書に掲載されていて,タイトルだけがなぜか残っています.不思議ですが,なぜか忘れられません.そういうことってありませんか?何かを理解することが大切だとは思いますが,こういう引っかかりを残すことも,合理性ばかりを求めない教育の一端だと思います.

その話では,戦時中の看護師さんが患者さんの熱を冷やすため,不足していた氷の代わりに,たまたま降った雹(ひょう)をかき集めて使うというシーンがあります.その後が作品の醍醐味だと思いますが,物語や小説には気象現象が出てきます.天候が悪くなることは,物語の展開や登場人物の心情の描写とされています.そんなことと気象現象を結び付けてみることも面白い切り口になると思います.

+参考になる本

積乱雲(入道雲)に興味を持った方は,以下の書籍がおすすめです.気象研究所・荒木健太郎さんと空の探検家・武田康男さんの書籍は,写真やイラストが充実していて,雲や天気に興味を持った方にお勧めです.



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