玄武洞で柱状節理と玄武岩を観察しよう~兵庫県豊岡市

お出かけ・野外

兵庫県豊岡市にある玄武洞は,約160万年前に起こった火山活動を感じることができる場所です.地球内部から火山活動でもたらされたマグマが冷やされてできた玄武岩の柱状節理が見事で,山陰海岸ジオパークにも選ばれています.「玄武岩」という名前の由来になり,地球磁場の研究史でも重要な場所でもあり,理科の学ぶ上でも適したところです.車でアクセスでき,近くには温泉やカニを楽しめる城崎温泉もあるので,旅行ついでに立ち寄り,自然や地球の営みを感じてみてはいかがでしょう.

玄武洞の大きなスケール

今の時代,インターネット上に写真や動画があり,Google Mapを使ってバーチャルで訪れることもできる時代です.技術的にはVRなどが期待されますが,実際の玄武洞の大きさを体感することは,まだ難しいように思います.次の写真は玄武洞のパノラマ写真です.目の前に広がるダイナミックな光景を見て,火山活動という地球の営みを,その場所で感じてみることは価値があると思います.是非,見に行ってもらいたいところです.

玄武洞のパノラマ写真

現在,近畿地方には活火山はありません.でも,玄武洞ができた頃は,この辺り一帯で活発な火山活動が起こっていたことが,地質調査からわかっています.ダイナミックな玄武洞の風景から,当時の活発な火山活動を想像してみてはいかがでしょうか.

美しい六角形の柱状節理に注目

さて,玄武洞のスケール感を感じたら,次は柱状節理を観察してください.火山が噴火して流れ出した溶岩は冷やされていきます.物質は温度が高くなると膨張し,温度が低くなると収縮するため,溶岩も地表付近で冷されると収縮していきます.その岩石が収縮するときにできる割れ目を「節理(せつり)」と呼び,柱状になっているものが柱状節理(ちゅうじょうせつり)です.

次の玄武洞の写真を見ると,中央下から左下にかけては縦方向に(青丸),また中央上から右上にかけては横方向に(赤丸)発達した柱状節理が見られます.

玄武洞の中央部にある柱状節理

中央下から左下の縦方向の柱状節理には,次の拡大写真のような細かく横方向にも節理が入っています.こちらは福井県の東尋坊など,海岸付近でも他でもよく見られる形です.

玄武洞の縦方向に伸びた柱状節理に,横方向に入るたくさんの節理

中央上から右上には,次のような横方向の柱状節理は見られます.これらは溶岩の冷え方の違いがあったため,割れ目(節理)の向きが違うと考えられます.溶岩流の冷え方もすべて同じではなかったと言えそうですし,それらが一つの場所で見られるのも面白いところです.

玄武洞の横方向に伸びた柱状節理

柱状節理を観察できたら,今度は柱の断面の形にも注目しましょう.六角形に近い形をした断面が多いのではないでしょうか.次の写真は白虎洞の柱状節理です.玄武洞でも他でも見れますが,ちょうどすぐそばで断面がよく観察できます.すべてが完璧な六角形でないのも自然らしいことです.

柱状節理の断面(白虎洞)
柱状であることが良くわかる断面(白虎洞)

溶岩が冷えて収縮するときに溶岩が均質であれば,柱状節理は六角形になります.六角形は,構造的に強いので,ハチの巣などにも同じような六角形が見られます.いわゆるハニカム構造といわれる構造です.不思議な自然の造形美です.

柱状節理のでき方(青龍洞の看板より)
道に落ちていたハチの巣.柱状節理と同じように六角形をしています.

玄武岩の由来となった玄武洞

さて,玄武洞という名前にも面白い話があります.玄武洞という名前は,江戸時代の儒学者である柴野栗山が城崎を訪れた時に,中国の四神の「玄武」にちなんで「玄武洞」と命名したそうです.先ほどから見てきた断面の六角形が亀の甲羅を,横の節理がたくさん入った縦方向の柱状節理が蛇の姿(蛇腹)を想像させたのでしょう.次の写真は,奈良県にあるキトラ古墳の石室の北壁に描かれた玄武です.見比べてみていかがでしょうか.

奈良県・キトラ古墳に描かれた四神・玄武(飛鳥資料館展示のレプリカを撮影)
亀の甲羅に見えますか?
蛇の胴体(腹)に見えますか?

このようにして名付けられた「玄武洞」ですが,明治時代,東京大学の地質学者・小藤文次郎は「玄武洞」を作っている火山岩を「玄武岩」と名付けました.これが学校でも習う「玄武岩」の名前の由来です.マグマが固まってできる火成岩のうち,地表付近で急冷されたものを火山岩,といいます.その火山岩の中でも黒っぽく有色鉱物の多い岩石が「玄武岩」で,その他には安山岩や流紋岩があります.

玄武洞公園には,玄武洞以外にも四神の名前が付いた洞窟が4つあります.青龍,白虎,朱雀(南朱雀洞と北朱雀洞)も時間があれば見学してみてください.青龍洞では,柱状節理が放射状に広がるように伸びていて,私は美しいと思います.白虎洞は,横方向に柱状節理が発達しており,その断面も間近に見ることができます.また,朱雀洞も規模は小さいものの,見事な柱状節理です.

青龍洞
白虎洞
南朱雀洞
北朱雀洞

玄武洞の岩石で行われた地球磁場の研究

玄武洞には,科学の歴史に関わる話がもう1つあります.方位磁針のN極が北を指すことは広く知られています.でもなぜでしょう?答えは,地球が1つの大きな磁石のような性質を持っており,北極が地球の磁石のS極にあたるからです.ちなみに,方位磁針のS極が南を指すので南極がN極です.ところが,地球の歴史をひも解いていくと,これが逆転していた時代があることがわかっています.つまり,北極がN極,南極がS極の時代があったのです.

地球がもつ磁石の性質(右の状態があることが玄武洞の岩石から判明した)

このことを世界で初めて発見したのが京都大学の松山基範です.彼は,玄武洞の玄武岩を研究し,当時,まだ知られていなかった地球磁場の逆転を発見しました.これは高校の理系地学の教科書で扱われる内容です.実は,マグマが冷え固まるときに,岩石はそのときの地球の磁石に影響されます.つまり,マグマが冷え固まった時代が他の方法で推定できれば,その時代,地球の磁石がどうなっていたかがわかるのです.地球の磁石が逆転していたことは,過去の地球の歴史を調べる上でも重要ですし,プレートテクトニクスの発見にも役立ちました.玄武洞の玄武岩からこんな大発見があったことも知りながら玄武洞を眺めてみるのも良いのではないでしょうか.

玄武洞と地域の暮らしとの関係

長くなりましたが,最後に玄武洞と我々の暮らしとの接点についても少しお話しします.玄武洞を見学した後,公園内を歩いていると,おそらく最初は気づかなかったことに気づくかもしれません.玄武洞ミュージアムから公園へ入っていく坂道はきれいに整備されていますが,そこに六角形が隠れてはいませんか?玄武洞の六角形に魅せられれば,意識して観察できるようになる場合もあると思います.

玄武洞公園の園路(右に積み上げられているのも玄武岩です)
園路に六角形の玄武岩が使われていることに気づきましたか?

理科で「観察」という言葉が出てきますが,同じ風景を見ても見方や着眼点がなければ気づかないものです.観察する力は,こういう経験を通して豊かになるのだと思います.この地域の観光といえば,城崎温泉かなと思いますので,立ち寄られる方も多いと思います.もし,城崎温泉街を歩かれるなら,川の護岸にも注目してください.恋人と雰囲気よく歩く場合は,ひそかに観察をしてみてください(笑)玄武洞の玄武岩を見つけることができると思います.

城崎温泉街を流れる川と風景(暗くて見づらいですが両岸の護岸が玄武岩)

何となくわかってきたかと思いますが,玄武洞は自然というより人間が石を取るために洞窟のようになった場所です.木材を加工して家などを建てる人は大工さん,石材を加工する人は石工(いしく)さんといいます.昔,この玄武洞の加工しやすい玄武岩は,人々によって家の石垣や漬物石など,さまざまに活用されてきました.城崎や豊岡周辺を歩くときは,黒っぽい六角形の玄武岩を探してみてください.

玄武洞のゆるキャラ・玄さん 石工さんがモデルです.

玄武洞へのアクセス

玄武洞までは車が便利です.舞鶴道や京都縦貫が便利になり京阪神からのアクセスも良くなっています.電車でも近くに玄武洞駅がありますが,川を渡らなければなりません.時間があれば,電車と渡しをきちんと調べて楽しむのも良いと思います.

(おまけ)兵庫県立コウノトリの郷公園

地球科学からは離れますが,せっかく野外に出かければ,分野には関係なく何でも興味を持ちたいものです.私も何度か玄武洞へ行く中で,ちょうど田んぼにいるコウノトリに出会いました.豊岡市はコウノトリでも有名です.県立のコウノトリの郷公園も整備されていて,コウノトリにも会えますし,展示などで詳しい生態や歴史がわかります.ちなみに,ブラタモリ「豊岡」では,玄武岩を作った火山活動がコウノトリの生息地を作ることに関係していたとまとめていました.是非,お立ち寄りください.

公園近くの田んぼでたまたま見つけたコウノトリ
兵庫県立コウノトリの郷公園

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