盲老人ホーム・慈母園でのサイエンス教室 2020

教育全般

 これまで盲老人ホームで行ってきたサイエンス教室が,新型コロナウイルスのため中断していました.最近,施設のオンライン環境が整ったことから,ZOOMを使用して再開しました.オンラインで実施することにより,最も大切な新型コロナウィルス感染症対策に加え,オンラインでつながる新鮮さや講師の移動時間の削減などが利点になりました.一方,映像を通してでは全体の雰囲気や細かな反応が把握しづらく,実物に触れないなどの欠点もありました.ここでは,この取り組みの2020年の内容(第1回:海の水はなぜしょっぱい?第2回:光合成生物の出現・酸素の発生・縞状鉄鉱層,第3回:オゾン層の形成・冥王星の惑星)を報告したいと思います.

サイエンス教室を始めた経緯

 科学を学んでみる場は,学校教育ばかりではないはずです.自然系の博物館があるように,本来,社会全体で広く科学(サイエンス)に触れる機会がある方が良いと思います.大人になってからでも気軽にサイエンスを学ぶ機会があってよいという思いから,学生時代からご縁のあった盲老人ホーム・慈母園さんに協力いただき,この企画が始まりました.

 養護盲老人ホーム・慈母園では,利用者さんが園芸や裁縫など,様々なクラブ活動をなさっています.他の社会福祉施設でも同じような取り組みはなさっていると思いますが,科学について学んでみるというクラブ活動は少ないのではないでしょうか.気軽に科学に触れ,生活に身近なことから学んでみるという趣旨で,サイエンスカフェという名前で,利用者の方々の質問に基づいて,私が話題提供するようなサイエンス教室を始めました.

 学校教育でも,吹奏楽部や書道部,美術部など,文化部の定番といえる部活動に比べると,科学部というのはまだまだメジャーではないように思います.この辺りは,日本における科学を楽しむ文化という大きな問題もあるかもしれません.

 養護盲老人ホーム慈母園にご興味のある方は以下のページをご覧ください.

養護盲老人ホーム 慈母園|社会福祉法人壷阪寺聚徳会
慈母園は、奈良県高市郡高取町にある眼の不自由な視覚障害者のための養護老人ホームです。指定特定相談支援事業所でもございます。壷阪寺聚徳会グループは「思いやりの心、広く深く」の言葉の下、目の不自由な視覚障害者のために福祉事業を展開する社会福祉法...

サイエンスカフェ1回目・コロナ前(1/26)

 まだ,私が学校教員で,顧問をしていたスキー部の引率が雪不足で中止となり,ここがチャンスとばかりに,しばらくできていなかったサイエンスカフェを実施しました.前回に質問をいただいていた「海の水はなぜしょっぱいか」というのが今日のお題でした.

 地球ができた初期には,ドロドロに溶けたマグマの海があったことから始まり,その後,海ができて,川や地下水を通して色々な物質が溶け込んで運ばれ,現在の海水ができたという話をしました.化学物質の名前を出さざるを得ないので,少々,難しかったと思います.それでも,なぜ湖や川はしょっぱくない?塩分の違いはどうしてできる?海の水になんで浮くのか?などの質問があり,水循環や塩分,密度との関係などを説明しました.

 地球の歴史の中で,海は変化してないのかという質問もあり,次回は,大気と海洋の変遷をテーマに,光合成生物の誕生と酸素の発生,二酸化炭素の減少,縞状鉄鉱層あたりの話をすることにしました.もはや高等学校・地学基礎の範囲がカバーできそうです.(参加者:24名)

コロナ前のサイエンスカフェの会場

オンライン実施で再開

 1/26のサイエンスカフェの後,新型コロナウイルス感染症が発生しました.利用者の方々は,ご年配の方が多いため,感染リスクを考えるとサイエンスカフェは,中断せざるを得ません.また,私自身も担当の職員さんも,仕事の隙間を縫って調整しているため,なかなかコロナ対応する時間も取れず,再開まで時間がかかってしまいました.私は,3月いっぱいで学校教員を辞め,新しい生活になれることが必要であり,また,施設もコロナ対応をしながら,オンライン設備を整える必要があり,なかなか再開までは時間がかかるのは仕方なかったと思います.それでも施設の職員さんのご尽力で,オンライン設備が整い,2020年10月,再開にこぎつけました.

サイエンスカフェ2回目・オンライン実施(10/8)

 今日は,初めてのオンラインでの実施でした.前回の1月から約9か月ぶりに,盲老人ホームでのサイエンスカフェをさせていただきました.私はパソコンとネットを準備するだけですが,職員の方々のご尽力あっての開催だったと思います.上下の写真を比較していただくと,ソーシャルディスタンスなどの配慮がよくわかります.

 今回の内容は,地球の大気の変遷の中で,地球大気に酸素ができた話をしました.当時,生き物は海の中で暮らしていて,その中に光合成をおこなって酸素を発生する生物が生まれたという話です.海の中で発生した酸素は,当時,海に大量に溶け込んでいた鉄と結びつき,酸化鉄となって海底に堆積していきました.それが地層となったものから私たちは鉄を取り出し,生活や社会で利用しています.

 そういう話の一方で,初めてのオンライン実施という事のインパクトもあったようです.視覚障がいのため,正面のスクリーンに映る私の顔は見えないですが,その場に私がいて話しているのか,機械を通した私の声なのか,きちんと感じ取っておられると思います.遠く離れているはずなのに,近くに声が聞こえてきて,やり取りができることは,やはり新鮮さや驚きを感じます.この仕組みでいけそうなので,当面,この形で継続していきたいです.(参加者:14名)

10/26の様子(© 慈母園スタッフ撮影)

サイエンスカフェ3回目・オンライン実施(11/12)

 オンライン実施の2回目.前半は,前回の地球大気の変遷を復習しながら,光合成で発生した酸素が大気中に出て,オゾン層が形成された話をしました.後半は,前回いただいた質問をもとに,冥王星が惑星から外れた理由を説明しました.冥王星の降格とか格下げということが見出しになりますが,大事なことは,研究や観測技術の発展によって,太陽系の新しい姿が見えてきたことであるという話をしました.いつも参加者の質問から次回のテーマを決めていますが,次回は,金属の膨張と収縮,宇宙に生命は存在するのか,という壮大なテーマになりました(笑).

【皆さんの感想】(参加者:13名) 慈母園Facebookより

  • 冥王星の気持ちになって考えてみたら気の毒ね
  • 楽しかったー
  • 分かりやすかった
  • 学校にまた行きたくなった
  • 参加できなかった方に冥王星のこと教えてあげたよ
  • すいきんちかもくどってんかいめいって覚えているもんですね
11/11の様子(© 慈母園スタッフ撮影)

2020年のまとめ

 2020年は,新型コロナウイルスの発生で大きく実施方法を変えることとなった.それでも,何とか利用者の方々との交流が続けられていることが最も大きな成果だと感じた.新型コロナウイルスの影響を受けて,以下に,コロナ禍で変化したオンライン実施の長所と短所をまとめておきます.

長所

  • 新型コロナウイルスの感染を持ち込むリスクを下げる
  • 講師にとっては,移動時間や費用を削減できる
  • 短期的には遠隔地とつながるという新鮮さがある

短所

  • これまで持ち込んでいた実物を触ることができない
  • 利用者さんの細かい反応までオンラインでは把握が難しい

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