地学同好会の2回目の野外巡検は,多摩川の上流部にある日原鍾乳洞でした.石灰岩の鍾乳洞が作る地形を中心に,洞内の温度や周辺での河川の侵食地形などを,実際に目で見て歩きました.この記事では,主な観察ポイントと内容,生徒の反応などについてまとめました.
鍾乳洞は,中学受験で出題されたり,教科書に載ったりする内容でもありますが,電車に揺られ,自分の足で歩き,たどり着いた洞窟で実際に体感することで,生徒の驚きと好奇心,そして,教科書の内容の深い理解が得られたと思います.
【活動日:2007年8月13日】
日原鍾乳洞までの移動
東京都西部は自然が豊かで,比較的古い(古生代の)石灰岩が分布するため,鍾乳洞が結構あります.学校に近い新宿駅に集合し中央線・青梅線で奥多摩駅まで電車に揺られます.立川駅まで中央特快で青梅線に乗り換えるか,青梅特快に乗れたら青梅まで乗り換えなしです.玄関口となる奥多摩駅まで,青梅特快なら1時間半強くらいですが,乗り換え接続すると2時間近くかかる場合もあります.
さらに,奥多摩駅からバスに乗り,鍾乳洞バス停まで約35分(土日は東日原バス停から徒歩30分弱)です.バスは本数が少ないので,接続は計画段階でチェックしておきましょう.都心から往復約5時間の軽い日帰り旅行です.
鍾乳洞のバス停で降りると,下の写真のような風景が迎えてくれます.
このあたりは日原川が侵食してできた谷が見られます.学校でも習う河川の侵食作用や下刻作用,V字谷などを見ることができます.教科書の説明は理解できると思いますが,実際に目で見ると,そのスケール感とともに体感することができます.これがフィールドワークの利点だと思います.
鍾乳洞のバス停から徒歩でそのままさらに奥へ歩いていきます.(土日は東日原のバス停までしかバスが行きませんので注意)そうすると,右手に鍾乳洞への看板が見えてきます.看板の誘導に沿って川の方へ下りていくと,下の写真のような入口にたどり着きます.
券売所で料金を支払って鍾乳洞へ橋を渡りましょう.インターネットから割引券をダウンロードして提示すると100円引きになります.
- 大人(高校生含む)800円
- 中人(中学生)600円
- 小人(小学生)500円
上の写真は橋から撮影した川の様子です.白っぽい岩石は石灰岩です.道中でもこういう白っぽい石灰岩が目立ちます.気を付けて観察してみてください.希塩酸があれば,少しかけてみると良いです.
ところで,ここまで新宿を出発して約2時間半くらいでしょうか.往復約5時間は,都市部で生活する生徒たちには長い時間でしょう.電車内では,読書したり,スマホをいじったり,はたまた寝てみたりと人それぞれです.長い時間をどのように過ごすか,今どきは友達とゆっくり過ごせる時間が意外と貴重だとかいうこともあります
ただ,地学としては空間的な認識という観点から移動時間が大切だと思います.あまりに早い交通手段だと遠くへ来た気がしません.例えば,飛行機で沖縄に行くと,私は遠くへ来た実感がすぐに伴いません.退屈かもしれませんが,時間をかけて遠くまでやってきた実感を持たせ,地図や数値で移動した距離を伝えましょう.車窓も景色の変化や地形観察に有効です.こういうことを繰り返して,空間スケールや距離感が養われます.
日原鍾乳洞の観察
さて,ブログをお読みの方はすぐですが,引率した生徒にとっては,やっと鍾乳洞という感じです(笑)ちょうどお昼時で見学前にお昼ご飯でも良いと思います.
鍾乳洞に入ると,まず体感するのは涼しいという気温の変化でしょう.入ってすぐのところにあった温度計と湿度計の値は,それぞれ10℃と77%くらいでしょうか.良ければ,読み進める前に,以下の疑問について考えてみてください.
夏に鍾乳洞に入ると涼しいと感じますが,冬はどうでしょう?
また,その理由も考えてみて下さい.
鍾乳洞内に入ると,こんな感じです.
洞窟って感じがしますよね.写真に写っている生徒を見てください.8月なのに長袖ですね…やっぱり涼しいことがわかります.そして,この生徒は,私の事前の注意をよく聞いているか,準備の良い人物だとプロファイルできます(笑)
では,答えです.冬は暖かく感じます.
なぜでしょうか.地中にある鍾乳洞内は,太陽からの熱が届きにくく,外の気温に比べて,年中あまり温度が変化しません.それに対して,外気温は洞内の気温より大きく変化します.つまり,外と比べると,洞内の気温はほぼ一定であるため,気温が高く暑い夏は涼しく,気温が低く寒い冬は暖かく感じるというわけです.
私のプロファイリングができるくらい,ブログを読み込んでいただいている方は,予想できると思いますが,生徒たちは,この後,実際に冬にも行くことになります(笑)無理やりではありませんが,頭で考えたことも実際に確かめます.
さて,鍾乳洞の奥へと進みましょう.
上の場所は,非常に大きな空洞になっています.鍾乳洞は石灰岩が雨水に溶けてできます.長い長い時間をかけて,少しずつ石灰岩が溶け,これだけ広大な空間ができたと思うと,地球の営みが時間的にも空間的にも壮大であることを感じられる&語れる場所です.
安全のため,設置されている照明のところで,下の写真を撮りました.
真っ暗な鍾乳洞で,人間が設置したわずかな光で光合成をして生きているコケです.コケ植物はどこにでもいて本当にたくましいと思います.運が良いとコウモリにも出会えます.下の写真には,まさにコウモリがいそうな雰囲気ですね.
規模は小さいですが,鍾乳石と石筍です.石灰岩を溶かし込んだ水が天井から滴るときに,まるで軒下に雪解け水が滴って氷柱(つらら)ができるように,鍾乳石ができています.鍾乳石は天井から下に向けて伸びていきます.
一方,滴るしずくは,地面にも落ちてきます.地面には,鍾乳石とは反対に上に伸びていく石筍が作られます.「筍(たけのこ)」という字を使っているので,上に伸びていく石ということで,うまく表現されていますね.下の写真は立派な石筍です.
この石筍ができるのに,何滴の水滴が落ちてきたのでしょう.つららのようにはいきません.気の遠くなるような時間をかけて,この石筍は作られたと考えられます.
細かな数値がわからなくても,壮大な年月をかけて作られた自然の構造物は,人間の心を惹くものかなと思います.「金剛杖」という名前が付けてあります.日原鍾乳洞は,山岳信仰とも結びついていて,対岸にある一石山神社のご神体でもあります.そんな話を調べてみるのも面白い学びになります.
長い時間をかけて,地中にしみ込んだ雨水が,ゆっくりと石灰岩を溶かしできた鍾乳洞というイメージをもって見学すれば,このような地球の営みを少し垣間見ることができます.そして,観察して出てきた疑問は,生徒と一緒に温め,調べていくと良いでしょう.その場で答えられる準備は必ずしも必要ありません.
おまけ:水遊び・奥多摩鉱山
写真を整理してみると,この日は見学後に昼食を取ったようです.ゆっくり鍾乳洞を見学するには,先にお昼で良いと思います.こういうところで食べるお弁当やおにぎりは美味しいものですね.このときは,写真のように川遊び客でにぎわっていました.
そうなると・・・(笑)
ですよね(笑)まあ,そうでしょう.ちょっとくらいズボンが濡れても,ごゆっくりどうぞと微笑みながら見守ります.こうしたシーンは野外では多いです.考えすぎかもしれませんが,こういう経験や時間が少ないこともあるのかもしれません.自然観察が目的ですが,五感を刺激する楽しみは,立派な自然観察だと思うので,付き合う or できれば想定してあげましょう.
同好会を作った初期メンバーに,鉱物が好きな生徒がいました.私もよく鉱物について質問して教えてもらいました(笑) 教師も生徒もなくフラットでよいと思います.彼の提案で奥多摩鉱山跡にも寄りました.奥多摩駅から歩けますが,そこそこ歩いて疲れて着いた駅から,実は結構な勾配でした(笑)この頃は20代で若かったです.
参考情報
日原鍾乳洞に関するホームページ
日原鍾乳洞の位置
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